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大阪地方裁判所 昭和29年(行)78号 判決 1960年10月28日

原告 安倍茂伊

被告 大阪国税局長

訴訟代理人 藤井三男 外一名

主文

被告が昭和二九年七月一六日付でなした原告の昭和二七年分所得税についての審査決定中所得金額七二九、〇〇〇円並びに過少申告加算税額九、五五〇円のうち所得金額三一四、一四〇円並びにこれに基き算定した加算税額を超える部分を取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分しその一を原告その余を被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告が昭和二九年七月一六日付でなした原告の昭和二七年分所得税についての審査決定中、所得金額を七二九、〇〇〇円とするうち二〇〇、〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税額を九、五五〇円とする部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求の原因として、

(一)  原告は肩書地において果実小売商を営むものであるが、昭和二七年中の所得金額は二〇〇、〇〇〇円であるとして所轄西宮税務署長にその旨確定申告したところ、同税務署長により所得金額を一、〇五二、〇〇〇円、過少申告加算税額を一六、九〇〇円と更正処分を受けたので、適法に再調査の請求をしたのに対し、同税務署長は所得金額を九六九、〇〇〇円、過少申告加算税額を一五、〇五〇円とする再調査決定をなし昭和二八年七月一七日原告に通知した。原告は更に同年八月四日被告に対し審査の請求をなし、被告は昭和二九年七月一六日付で再調査決定を一部取消し、所得金額を七二九、〇〇〇円、過少申告加算税額を九、五五〇円とする審査決定をしてその頃原告に通知した。

(二)  しかしながら、原告の昭和二七年分所得金額は前記確定申告のとおり二〇〇、〇〇〇円であつて、被告のなした審査決定中右金額を超える所得金額部分及び過少申告加算税額部分については違法な処分であるから、その取消を求めるため本訴に及んだと述べ、

被告の答弁事実中(一)の主張に対し、

昭和二五年五月双葉市場の開設当時、その周辺の土地は戦災後の住宅地として著しく復興がおくれ、かつ同市場は阪神西宮駅から八〇〇米阪急夙川駅から約一粁、阪急西宮北口駅から二粁の地点にあり、西宮市の市場中最も交通条件に恵まれない。加うるに昭和二六、七年中に阪神市場、夙川市場が順次開設された結果、右両市場にも顧客を奪われ、双葉市場は極めて少数の消費者を対象とするに至つた。しかも原告の店舖は間口二間半双葉市場の裏出口に当る最西端にあり、右市場の店舖中最も不利な場所にある。

(二)の収入金額の主張に対し

期首、期末の在庫が被告主張のとおりであることは認めるが、仕入金額及び収入金額に関する主張は否認する。昭和二七年中における仕入金額は三、四一五、四三四円、収入金額は三、七八六、〇〇〇円である。

仕入金額

原告の昭和二七年一〇月末までの仕入金額が二、九三五、二二八円であることは認めるが、年間の仕入金額の合計が三、六三九、六八二円であることは否認する。同年一一月における仕入金額は二〇四、二〇六円、一二月におけるそれは二七六、〇〇〇円であつて年間仕入総額は三、四一五、四三四円である。被告は原告の申立てた一一月及び一二月分の仕入金額が過少であるとして一般の認定基準を適用して仕入金額を推定しているが、これは原告が店舖を有する双葉市場の特殊性を全然考慮に入れぬ不当の措置である。果実販売業者間では一一月をもつて冬枯期と称し、年間を通じ最も売上の少い月であつて、これに対応して仕入も最も手控える時期である。また一二月は正月を控え好時期であると一般にいわれているが、双葉市場は例外であつて、この附近の顧客は比較的高額所得者が多く、年末贈答品によつて果物の需要を賄う関係から一二月に特に仕入が大であるとはいえない。

差益率

被告は売上原価に差益率二二%を適用して収入金額を推計しているけれども、差益率は多数業者を調査して得た結果を集計し平均値を求めたものであつて、あくまで統計的なものである。これを課税上の参考資料とするは格別、これによつて直ちに収入金額ないし所得金額を決定することは不合理であつて個々の場合における諸条件、例えば経営者並びに従業員の経験年数と能力、店舖の位置及び構造(商品の陳例、配置方法)、消費者の心理等をも考慮すべきものである。のみならず、双葉市場は昭和二五年営業を開始し、同二七年当時は開業後日浅く、将来の繁栄を期待し、当分は利潤を度外視して顧客の獲得に専念する営業方針を樹てていた上開店後早々附近に競争市場が開設されたため顧客の獲得に必死の努力を払い利益を最少限度に抑え原価に近い価格で販売を余儀なくされていた実情にある。また被告は売上原価に差益率を適用して売上金額を算出しているが商人が利益率を問題とする場合は仕入金額に利益率を乗じて何割の口銭というのであつて、二二%の差益率を右の方法で算出すれば二八%強となるのであるが、原告はこのような利益率で販売しているものではない。原告は昭和二七年中その仕入金額の一〇%ないし一五%の荒利益を得て販売したものである。

必要経費

被告主張の必要経費についてはすべて認める。

双葉市場においては原告の外訴外西田門も果実小売商を営んでいるが、同人に対する昭和二七年分更正決定は三〇〇、〇〇〇円である。同一市場内で同一程度の規模で同一業種の営業を営む者の所得の認定がこのように著しく相異する根拠は全くない。そして西宮市内の果物小売商で原告の倍額以上の売上高を有する者でも、当時五〇〇、〇〇〇円以上の所得の認定を受けた者は原告の他に一名も存しない。なお原告に対する昭和二五年分決定は一六五、〇〇〇円、昭和二六年分決定は二八〇、〇〇〇円であるのに対し、昭和二七年分に至り一躍七二九、〇〇〇円と決定されたものである。

右のような事情からするも、被告の審査決定にかかる所得金額の認定は到底正当とはいわれないと附陳した。

(証拠省略)

被告指定代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め答弁として、

原告主張の請求原因(一)の事実は認めるけれども(二)の事実は否認する。

(一)  原告はもと尼崎市大島市場において果実商を営んでいたが、昭和二五年五月西宮市分銅町に双葉市場が開設されるや、その建物の一部を購入して移転し、同一営業を営んでいるものである。双葉市場は西宮市有数の繁華街である札場通西側に位し、食料品及び各種家庭用品の販売を主とする業者が集合して営業をなし、原告店舖はその最西端にあつて、住宅街をひかえ、商業上立地条件は良好である。そして原告店舖の間口は三間、奥行は二間程度で家族七名中本人夫及び甥の三名が主として営業に従事し、商品は西宮市所在の西宮中央市場から仕入れ、これを店頭販売をしているものである。

(二)  原告は仕入、販売その他営業に関し記録した帳簿を備付けず、仕入代金の支払につき昭和二七年一〇月分までの協和銀行西宮戎支店の小切手帳控を保存しているのみにすぎず、かつ原告の申立にかかる所得金額算出の根拠には合理性がなく、これを是認することができなかつたので被告は次のとおり原告の所得金額を算出したのである。

収入金額

収入金額は原告の同年中の仕入金額を三、六三九、六八二円と認定し、これに期首在庫五〇、九三一円を加算した三、六九〇、六一三円から期末在庫五一、三〇〇円を控除した三、六三九、三一三円をもつて売上原価とし、これに差益率二二%を適用して得た四、六六五、七八五円を収入(売上)金額と推定した(3,639,313円÷(1-0.22)=4,665,785円)

仕入金額

原告が申立てた仕入金額のうち一〇月分までは一応妥当性が認められたので、これを基礎として年間仕入金額を推定した。すなわち、大阪国税局において多数の果実業者について調査したところ、一〇月までの仕入金額に対する年間仕入額は一二四%に相当する。そこで原告の一〇月までの仕入金額二、九三五、二二八円に一二四%を乗じた金額三、六三九、六八二円をもつて原告の年間仕入金額と認定したのである。この一二四%なる比率が西宮市における果実業者の昭和二七年中の比率として適正であるかどうかを確認するため、被告は西宮中央市場の事務員に比較的誠実に記帳していると認められる同業者九名を抽出せしめ、右九名中から更に昭和二九年に法人組織となつたもので、それまでは記帳していなかつたと認められる者及び住所不明の者各一名を除き、残り七名に照会し、その回答のうちから昭和二七年中の一部について記帳のない二名を除いた五名の卸売業者について集計したところ、昭和二七年中の卸売金額は二三四、〇〇五、八六一円、一〇月までのそれは一八九、九四五、六一七円で、年間卸売金額は一〇月までの分に対し、約一二四%となるとの結果を得た。卸売業者の販売は小売業者にとつては仕入に相当するものであるから、右の一二四%なる比率は原告の場合においても適用しうること明白である。

差益率

大阪国税局において管下不特定同業者多数について売上金額に対する荒利益の比率を調査したところ、差益率二二%なる旨判明した。そして原告の業態について調査の結果他の同業者と比較し特に高く仕入れ、または安く販売しているような特殊事情がなく、従つて本件において右差益率を適用したのである。尚ここに差益率とは売上金額と売上原価との差額(差益)の売上金額に対する、または売上原価に対する比率をいい、その売上金額に対するものを内歩、売上原価に対するものを外歩とすれば、例えば売上原価一〇〇円、差益率二〇%ならば外歩では売上金額は一二〇円(100円×(1+0.2)=120円)であり、内歩では売上金額は一二五円(100円÷(1-0.2)=125円)である。被告が原告の収入金額を推定するについて適用した差益率二二%は売上金額を基準とした内歩であつて、売上原価を基準とした外歩ではない。

必要経費

(1)  電気代

領収証によつて確認しうる電気代は動力費(電気冷蔵庫用)一〇、五九三円、電燈料八、〇一〇円であるが電燈料のうち半額を家事費として認定し、その余四、〇〇五円及び動力費全部合計一四、五九八円を営業経費と認定した。

(2)  電話料

原告は昭和二七年中に電話を架設していなかつたので、一日三回または四回程度公衆電話または借電話を使用するものと認め、その代金一ケ月一、〇〇〇円、年間一二、〇〇〇円を営業経費と認定した。

(3)  包装費

原告の営業の実情からみて包装費として四八、〇〇〇円程度を算出するのを相当であると認定した。

(4)  組合費

双葉市場会費は月額一、五〇〇円であるから、年間一八、〇〇〇円となる。

(5)  売出経費

宣伝用タオル代等を含む売出費用三八、〇〇〇円を是認した。

(6)  公租公課

事業税二九、〇四〇円、固定資産税三一、七五〇円のうち四〇%に相当する一二、七〇〇円、自転車税四〇〇円であり、合計四二、一四〇円となる。

(7)  利子

支払した利子八、一三〇円を是認した。

(8)  減価償却費

建物取得価額四三〇、〇〇〇円、電気冷蔵庫取得価額二八〇、〇〇〇円、陳列棚取得価額一〇、〇〇〇円に対し、それぞれ法定の方法により算定した減価償却費は一七、二五一円となる。

差引所得金額

以上の収入金額四、六六五、七八五円から売上原価三、六三九、三一三円及び必要経費一九八、一一九円を控除した八二八、三五三円が昭和二七年中における原告の所得金額である。

(三)  右のとおり、原告の所得金額は八二八、三五三円であるから、その範囲内においてなされた本件審査決定は何等違法な点はなく、その取消を求める原告の本訴請求は失当であると述べ、尚原告が主張する競争市場が開設されたのは、いずれも昭和二七年以前である。すなわち産所町所在の阪神市場は同二五年八月一日津門町所在の阪神市場は同二二年一〇月一日、馬場町所在の便利市場は同二五年一二月二五日、羽衣町所在の夙川市場は同年九月二〇日開設されたのである。

原告は双葉市場において原告と同様果実商を営む訴外西田門が原告と同程度の売上をしているにも拘らず、所得金額の認定が原告に比較して低いと主張するけれども、課税については個人の秘密の点にまで立入つて調査するのであるから、本人以外には判明しない点まで計算せられて所得金額を認定されるのである。仮りに西田に対する所得金額の認定が原告に比較して低いとしても、原告に被告の主張する所得がある以上西田に対する追加課税が考慮されるだけのことであつて、原告の所得金額の認定を変更する理由となるものではない。

また原告に対する昭和二五年及び同二六年分所得金額が原告主張のとおりであることは争わないけれども、所得税は前年の所得金額に対比してこれを決定するものでなく、右両年度と比較して本件の課税処分の不当を主張することは理由がない。仮りに原告の主張が右両年度においても昭和二七年分と同額の所得を得ているとの趣旨であるならば、右両年分について追加課税が考慮されうるにすぎないのである、と附陳した。

(証拠省略)

理由

原告が昭和二七年中肩書地双葉市場内店舖において果物小売商を営んでいたこと、原告が昭和二七年度の所得税についてその所得金額は二〇〇、〇〇〇円であるとして所轄西宮税務署長にその旨確定申告したところ、同税務署長からその所得金額を一、〇五二、〇〇〇円過少申告加算税額を一六、九〇〇円と更正処分を受けたので適法に再調査の請求をしたのに対し、同税務署長は所得金額を九六九、〇〇〇円過少申告加算税額を一五、〇五〇円とする再調査決定をなし昭和二八年七月一七日原告に対しその通知をなし、原告は更に同年八月四日被告に対し審査請求をなし、被告は昭和二九年七月一六日付で再調査決定を一部取消し所得金額を七二九、〇〇〇円過少申告加算税額を九、五五〇円とする審査決定をしてその頃原告に通知したことは当事者間に争のないところである。

原告は昭和二七年度における原告の所得金額は二〇〇、〇〇〇円であつて被告が本件審査決定において原告の同年度の所得金額を被告主張の如き推計によつて算出しこれを七二九、〇〇〇円過少申告加算税額を九、五五〇円としたのは違法である旨主張するので判断する。

証人安倍庄平の証言(第一回)によると原告はもと尼崎市大島市場において果物商を営んでいたが、昭和二五年五月西宮市分銅町に双葉市場が開設せられたので同市場の北側最西端の間口二間半奥行二間の店舖一戸を購入して移転し果物商を営んできたもので、昭和二七年当時は原告とその夫安倍庄平並びにその従兄弟の三人でその営業にあたつてきたものである事実が認められる。

ところで証人上原賢一同和田賢一の各証言を綜合すると、原告は昭和二七年中の仕入販売に関しこれを記録した正規の帳簿書類を備付けず、仕入代金の支払につき同年一月から同年一〇月分までの取引銀行の小切手帳控を保存していたにすぎず、かつ大阪国税局係員の審査請求についての調査にあたつても右小切手帳控を提示するのみで原告申立の所得金額につきこれを是認するに足る調査資料を提示説明するところがなかつた事実が認められるので、原告の所得についてこれを推計計算によることはその計算方法にして合理的なかぎり止むを得ないところとして認容されるべきものというべきである。

しかして原告の昭和二七年一月から同年一〇月までの仕入金額が二、九三五、二二八円であることは当事者間に争のないところであるがこれに被告主張の如き比率を乗じて年間の仕入金額を算出する推計方法の合理性について判断する。

証人上原賢一、同佐古田保、同和田賢一の各証言並びに右各証言により真正に成立したものと認める乙第一号証の一ないし三、第二号証、第一三号証の一、二、第一四、一五号証を綜合すると、大阪国税局作成の昭和二七年分営業所得業種目別売上(収入)金額年末補正表によれば果物業者の昭和二七年一月から一〇月までの売上金額に対する年間の売上金額の比率は一二四%強であると算定されているところ、右売上比率は大阪国税局が管内税務署に指示して商工庶業者を対象としてその業種、地域別、規模差により区分し無作為抽出法により選出した昭和二七年分青色申告申請者のうち昭和二五年一月分からの継続者の昭和二五年一月から昭和二七年九月にいたる月別売上金額の実績を調査した資料を基礎として統計学的方法による処理を通じて昭和二七年一〇月から同年一二月分までの売上額について推定を加えて各業種別に昭和二七年一月から一二月までの各月別売上金額の平均値を算定し同年一月の売上額を一〇〇とし二月から一二月までの月別指数を算出して作成されたものである事実、及び西宮税務署からその管内である西宮市内の果物卸売業者中昭和二七年の年間記録のある五会社について調査したところ、その昭和二七年の年間の卸売金額総額は二三四、〇〇五、八六一円で同年一月から一〇月までのそれは一八九、九四五、九一七円であつて一月から一〇月までの卸売金額に対する年間卸売金額の比率は一二四%強であつた事実が認められ、仕入に対応して売上がなされた卸売業者の販売は小売業者の仕入に対応するものであるからこれによることの妨げとなるような特別の事情の存在並びに原告の反証のないかぎり前記原告の昭和二七年一月から一〇月までの仕入金額にこの比率一二四%を適用して原告の年間の仕入金額を算定することは一応合理的な推計方法として是認し得るものと考えられる。

ところが証人阿倍庄平の証言(第一ないし四回)によりいずれも真正に成立したものと認める甲第一ないし第二六号証並びに右阿倍庄平、同西田門(第一回)同檜木保太郎の各証言に弁論の全趣旨を綜合すると、原告は昭和二七年中右店舖で販売した果物は全部西宮市池田町西宮卸売市場内の果物卸売業者から買受けたものであるところ、原告としては従来一一月は果物の冬枯期と称して年間を通じ比較的売上の少い月でありこれに対応して仕入も手控えており、また一二月は正月を控え好時期であるが原告の同市場の顧客の一部にはその受ける年末贈答品によつてその需要を賄う関係にあるものがあつたため、一一月一二月分の仕入がさほど大きいものと考えなかつたところから、本訴提起後であるが原告の昭和二七年一一、一二月分の果物の仕入についてその仕入先である西宮卸売市場内の果物卸商業者を洩れなく個別に訪れ、内檜木保太郎の分を除き各その仕入先の帳簿に基き、又檜木保太郎からの仕入分については原告の心覚えと檜木方のこれが確認により、原告の一一、一二月の果物の仕入額を遂一調査した結果、原告の昭和二七年一一月分の果物の仕入額は、各西宮卸売市場内の果物卸売業者である(一)西宮中央青果株式会社から金一八、六五〇円(二)丸紅青果から金一九、四〇〇円(三)三ツ山善男から金二五、一八六円(四)代農物産株式会社から金一〇、九五〇円(五)恵比須青果株式会社から金一五、四五〇円(六)西宮物産株式会社から金三六、〇二〇円(七)大一青果株式会社から金三九、四五〇円(八)檜木保太郎から金三九、一〇〇円以上合計金二〇四、二〇六円であり、同年一二月分の果物の仕入額は、同じく(一)西宮青果株式会社から金一九、五二〇円(二)丸紅青果から金三一、三六〇円(三)三ツ山善男から金九、一八〇円(四)代農物産株式会社から金二三、一二〇円(五)丸山青果株式会社から金二七、六五〇円(六)恵比須青果株式会社から金一、二五〇円(七)西宮物産株式会社から金七九、一八〇円(八)大一青果株式会社から金五二、八〇〇円(九)檜木保太郎から金二六、六四〇円(十)丸秀青果合資会社から金五、三〇〇円以上合計金二七六、〇〇〇円であつて、右以外の業者から仕入れたものはなかつた事実が認められる。被告提出の乙第三ないし七号証、第一二号証、第一三号証の一、二、第一四、一五号証その他被告爾余の全立証によるも前段認定を覆すことはできない。

してみると原告の昭和二七年一一、一二月の果物の仕入額については被告主張の推計計算を許す余地がなく、原告の昭和二七年中の仕入額は前記の如く同年一月から一〇月までの合計金二、九三五、二二八円一一月分二〇四、二〇六円一二月分金二七六、〇〇〇円以上合計金三、四一五、四三四円と認める。

そこで次に被告主張の如き売上原価に差益率を逆算適用して収入金額を算出する推計方法が合理的なものであるかどうかについて審究する。

証人佐古田保の証言、同証言により真正に成立したものと認める乙第八号証の一ないし三によると、大阪国税局作成の昭和二七年分商工庶業所得標準率表に果物小売の差益率は二二%と算定せられているところ、右差益率は大阪国税局が管内税務署に指示して商工庶業者を対象としてその業種地域別規模差により区分し個々の業者の中から無作為抽出法により選出した者の昭和二七年度における事業の収支の実績を調査しこれを基礎として各売上金額に対する売買差益の平均値を算出して右所得標準率表が作成せられたものであることが認められ、右は原告のこの業態について特別事情の存在並びに原告の反証がないかぎり、原告の売上原価に右差益率を逆算適用して原告の収入金額を推定することは合理的な推計方法として是認し得るものということができる。

しかしながら、証人阿倍庄平(第一ないし四回)同藤田順次、同丹波谷卯三郎、同西田門(第一、二回)の各証言並びに検証の結果及び成立に争のない乙第一号証の一ないし五に弁論の全趣旨を綜合すると、双葉市場は昭和二五年五月開設当時その周辺の土地は戦災後の住宅地として著しく復興がおくれていたもので同市場は阪神西宮駅から約八〇〇米、阪急夙川駅から約一粁阪急西宮北口駅から約二粁の地点にあり、西宮市内の市場中比較的交通条件に恵まれない位置にあつたこと、右市場には食料品並びに一般家庭用品等を販売する店舖四〇余軒が存在したが、右市場開設後同年中間もなく順次各同種の市場である阪神市場が同市産所町に夙川市場が同市羽衣町に便利市場が同市馬場町に開設せられたので、原告等双葉市場の業者は顧客をひきよせるため廉売を続けて来、昭和二七年当時においても将来の繁栄を期待し顧客の獲得のため必死の努力を払い利益を最小限度に抑えて販売することとし、同市場業者間に仕入金額の一五%の荒利益を得て販売することの申合せがなされ、原告はこれを実行して廉売を続けたものである事実、並びに右双葉市場開設当初から昭和二七年中同市場内で果物店を営んでいたのは原告と訴外西田門の両名のみであつたところ、右西田門は同市場北側東端から四軒目の間口二間奥行二間半の店舖で同人とその妻並びに女子の使用人の三名で営業にあたり原告とほぼ同一規模の営業をなしていたが、同市場東側は同市の繁華な通りである札場筋に面し、同市場の西側は住宅地であつて西田門の店舖は同市場の北側最西端にある原告の店舖よりはむしろ好位置にあつたものであるところ、西田門の昭和二七年度所得税についての所得金額の確定申告は二五〇、〇〇〇円であつたのに対し所轄西宮税務署長はその所得金額を三二〇、〇〇〇円と更正決定をなしたことが認められ、被告提出の乙第九ないし第一一号証その他被告爾余の全立証によるも右認定を覆すことはできない。

しかして原告に対する昭和二五年度の所得税の所得金額の決定は一六五、〇〇〇円昭和二六年度分の決定は二八〇、〇〇〇円であつたことは当事者間に争のないところである。

以上認定の如き原告の営業についての特別事情の認められる本件にあつては原告の昭和二七年度分の所得の推定に前記一般標準たる差益率二二%をそのまま適用することは失当といわなければならない。

ところで原告訴訟代理人は原告において昭和二七年中仕入金額の一〇%ないし一五%の荒利益を得て果物を販売した旨主張するのであるが、前認定の如く原告は昭和二七年中同人の双葉市場内店舖で顧客獲得のため果物を廉売し、同市場業者間に仕入金額の一五%の荒利益を得て販売することの申合せがなされ、原告はこれを実行し廉売を続けた事実に、前記証人阿倍庄平、同藤田順次、同西田門の各証言を綜合すると原告は昭和二七年中右店舖における果物の販売により、その仕入金額の一五%を下らない荒利益を得ていた事実が認められるから、原告は昭和二七年中その仕入金額の一五%の荒利益を得たものと認定する。

してみると、原告の昭和二七年度の期首期末の在庫高並びに必要経費がいずれも被告主張のとおりであることについては当事者間に争のないところであるから、前認定の原告の昭和二七年中の仕入金額三、四一五、四三四円に期首在庫高五〇、九三一円を加え、これから期末在庫高五一、三〇〇円を控除した残額三、四一五、〇六五円の一五%に相当する五一二、二五九円から必要経費一九八、一一九円を控除した残金三一四、一四〇円が原告の昭和二七年度の所得金額であると認める。

よつて原告の本訴請求中被告が昭和二九年七月一六日付でなした原告の昭和二七年分所得税についての審査決定中所得金額七二九、〇〇〇円並びに過少申告加算税額九、五五〇円のうち所得金額三一四、一四〇円並びにこれに基き算定した加算税額を超える部分は違法であるからその範囲で原告の請求を正当としてこれを取消し、原告のその余の請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小野田常太郎 山本久已 池尾隆良)

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